NEWS/TOPICS

2020-07-15
通訳業務の適正。

つい先日ご依頼をいただいた通訳業務が大変面白かったので許可をいただいた上でご紹介します。

広島県のとある不動産デベロッパー様によるご依頼で、自社の通訳2名がきちんと通訳できているかを私が会議に同席して判断してほしいというもの。

なるほど、面白い、ということで参加させていただきました。

1名の通訳Aさんは日本に留学経験があり、コミュニケーション能力の高い方。

もう1名の通訳Bさんは日本に留学経験こそないものの、アニメなどの日本の文化が好きで日本語を勉強中とのことでした。

北京と上海、日本でのテレビ会議となりました。

会議が滞りなく進められていくうちに、違和感を感じたのが、Aさんが中国語で発言する時には少し自分の気持ちを反映した表現を行ってしまう傾向が気になり、また丁寧ではあるもののスピード感がないことが分かります。

一方Bさんはかなり適当で日本語の意味が少し分かりにくかったり、敬語が上手に使えなかったりするものの、端的に端折って通訳を行う傾向がありました。

ご依頼の意図は何となく話を聞いていて分かっていたのですが、やはりAさんが自分の意思を含めて中国語で相手方に伝えてしまう傾向は通訳としては痛恨だと感じました。

例えば、C部長が中国でこうしたクレームが起こっていると報告が上がってきているが、対処はできているのか、こういう対処をしてはどうか。とお話をされるとAさんは

「C部長は中国でのクレームが起きていると言っていますが、そうでしょうか?そんなに多くはないし、対処できてますよね?また同様のクレームの対処はこうしなさいと言っています。」

と表現していました。

これに代表されるように、通訳と言うよりは意見を促すような物言いが目立っていて、会話自体は成立するのですが、自分の思うようにコントロールしてしまっている印象が強いのです。

これは管理者としては合格かもしれませんが、正直通訳としては致命的です。

一方のBさんはスピード感こそ劣りますし、時折失礼な日本語もありますが、通訳としての本質をよく理解しているように感じました。

これを同時に速記しながら誤りの部分をきちんとまとめて報告するのに通訳をするよりかなり骨が折れましたが、通訳には通訳の性格的な資質というのが少なからず影響を及ぼすなあと感じさせられたものです。

しかし、逆に言えばAさんが自社のことやC部長のことをよく理解して会社側の立場に立った通訳表現であれば、それは会社にとっては優秀な通訳ともいえるのです。

例えば以前、売掛金回収業務での打ち合わせに参加したことがあるのですが、相手方の妥協案に自社の通訳が怒ってしまったことがありました。

私は日中言語が分かるので怒れるのも理解できるような、呆れてしまうような譲歩案で、この通訳も自社のことを思うあまり激高してしまったのです。

彼は通訳と言うより一定の役職を持っている社員だったのですが、彼の怒りが上長を介さずに、ダイレクトに先方に伝わった効果というのは少なくないものがありました。

実際に上長も全く同じ意見だったようで、彼を諫めることこそすれど彼を咎めることはありませんでしたし、よくやったと褒めるほどでした。

通訳と一言で言っても、それぞれに立場があって感情があるのは当然で、それらを全て押し殺して通訳に徹しろ、と言われても、専門家でなければ難しいものがあります。

それならば少なくとも会社や上長と足並みを揃えるセンスというのが必要になるのではないでしょうか。

そのため通訳と翻訳にはまた違ったセンスが必要であることも間違いなく、文字化される翻訳には当然正確性がより重視されるというのも面白いことです。