NEWS/TOPICS

2021-06-21
分かり合えない価値観。

中国で、もう10年近いお付き合いになる私と同世代の中国人のS社長がいます。

貪欲でひた向きで、まっすぐで、少し東北人のいい加減さはありますが、心を許せる友人でもあります。

中国の東北地方を基盤としてサウナや岩盤浴の設計、施工をする企業の社長なのですが、日本には大変興味を持っていて、日本語こそできませんが、日本のニュースを耳にすると、すぐに私に連絡をして意見を聞いてきます。

お互いに一目置いている関係で、私も中国で困ったことがあれば彼に意見を求めることが少なくありません。

日中の離れた場所に住んでいても毎週のように連絡を取り合っていますが、どうしても、どうしても一つだけ理解し合えない価値観があります。

それは企業経営をする上での、お金の稼ぎ方、です。

これは日本人とか、日本企業との違いということでなく、見方によっては私が甘いと言われるかもしれませんが、例えば日本には温浴施設に関する法律として、公衆浴場法があります。

設備について最も重要な項目の一つがレジオネラ菌に関する事項になりますが、中国にはこうした規定がほとんどありません。(プールに対しては中国でも規定アリ)

レジオネラ菌がダメということは、管轄する保健所(衛生局)なども理解していますが、法的に整備されていなかったり、きちんとした規定が定められていません。

ですから、「何をしたらダメだ!」という明確な規定がない訳です。

これは余談になりますが、中国でもプールや温浴施設でレジオネラ菌が検出されてはいけないはずですが、何がダメという規定がない、もしくは曖昧なため、抜き打ちで検査をしたとしても、レジオネラ菌が出さえしなければ、営業停止のような処罰をす下す、判断基準や指標がない訳です。

ではどうするのか、というと、結局はレジオネラ菌が検出され、誰かが被害を訴えて、ようやく然るべき管理責任が負わされるという非常に危険な逆循環の構造となっているのです。

さて、お金の稼ぎ方の話に戻りますが、私は中国で設備に関する業務に携わっても、たとえ中国で法的な根拠がなかったとしても、日本と同じように日本の公衆浴場法を遵守した提案をします。

なぜなら日本の公衆浴場法の方が中国の規定よりも安全であることが明らかだからです。

その結果として、自社の提示金額が中国企業よりも高かったとしても、中国の法規的にオーバースペックであったとしても、です。

自社の提案や納品設備に安全性が確立できないものを推奨して、それに誰がそれを喜ぶでしょうか。

冒頭のS社長は(彼は専門外なので、このレジオネラに関する事の重大さを理解しているかは別として)、「中国で守らなくても良い法律に合わせるくらいなら、金額を下げて受注率を上げるべきだ」としきりに私に言うのです。

彼にも彼なりの考えがあって、中国の法規さえ守っていれば決して悪いことではないのですし、私とて商売をしている以上お金より顧客満足度、などと言うつもりもありませんが、『企業としての責務』、の価値観はあまりにも違います。

商売ですから、お客さんが喜んでもらえればそれでいい、とも言いません。

ですが、お金が儲かればそれでいい、とも言いません。

少なくともそれ以上に最も大事にすべきことが、企業として遵守すべき責務、だと私は考えています。

恐らく多くの日本企業が同様だと思いますが、あまりにも急速過ぎる経済発展を遂げた中国では、こうした考え方を理解できなかったり、希薄な知識での拝金主義が横行しているのも事実です。

まだまだそうしたビジネスコンプライアンスであったりは、成長の余地が大いにあるのが中国市場でもある訳です。