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2021-09-03
中国遼寧省大連市の某温浴施設での設備コンサルの話。

弊社のメイン事業は中国の温浴施設における設備販売、そして設備のコンサルティングです。

運営に目を向けると温浴施設には特殊な設備が多いため、施設責任者であっても設備の専門家であったり、かなりの経験を持つ方でなければ、それらを把握することはなかなか困難でしょう。

開業前の計画段階での温浴施設における設備選定や計画は非常に重要で、温浴施設に限ったことではありませんが、開業後のボイラーや循環ろ過設備など大型設備の改修工事は修正が難しく、費用が膨大になりやすい傾向があるからです。

壁紙を張り替えたり、新しい装飾品を設置するといった内装の改修工事やメンテナンスと比べ、開業後のボイラーや循環ろ過設備などの大型設備、またその循環配管などのテコ入れは、既に敷設されている設備の把握も必要になりますので、工事業者にとっても骨の折れる業務となります。

開業後はそれらの大型の設備とはずっと付き合い続けなければならず、万一開業前の計画に問題があったとしても変更は難しく、運営側はその手間に振り回され続ける、なんてことにもなりかねません。

お陰様で温浴施設、スーパー銭湯から設備に関連した様々なお問い合わせをいただきますが、先述のように場合によっては非現実的な莫大な費用を要してしまう設備の改装工事ではでき得ることが限られていて、新規計画中にプロジェクトに参加できていればなあ、と感じてしまうようなケースが少なくありません。

費用対効果や合理性、そして後々のメンテナンスに大きく関わってくるこの温浴施設の設備には、より慎重な計画と検討が必要であると考えています。

本日は中国において遭遇した温浴施設の設備について具体例を挙げてお話をしたいと思います。

今から5、6年前の話ですが、中国遼寧省大連市の温浴施設において、設備の改装計画に携わりました。

その時点で既に開業後10年以上年月が経っている施設でした。

中国の建築、内装工事はいい加減なものも多く、日常的にメンテナンスをしていない場合、ほんの2、3年でボロボロになる、なんてことは珍しいことではありません。

そうしたことから考えれば、運営オーナーは内装面でのメンテナンスにはかなり力を入れている様子が伝わってきました。

現地へ足を運び、お客様の導線を中心に一通り見学をしましたが、設備室がどこにあるのか全く検討がつきません。

それもそのはず、設備室は浴場と同階数の3階。

真四角の土地に対して道路側の片隅に、幅4mあるかどうかの、細長いスペースに配置しているのでした。

写真はイメージです

その機械室内にはボイラー、ろ過設備などが配置されていたのですが、それぞれの機械の横を通り抜けて行き来するような状況で、中国ではよくあることですが、そもそもの図面も存在しないというのです。

設備そのものも酷いもので、自動運転でないことは勿論、バルブは壊れていてろ過装置内の逆洗ができず、3日に一度マンホールを開けて砂を手で洗うというのですから恐ろしい状況でした。

循環配管は全て埋設されており、どれがどの系統に繋がっているのかも把握できず、現場の設備部門担当者さんをヒアリングの末、状況を把握するしかありません。

当然、お世辞にも浴槽水は清潔なものではなく、ある意味で、わざわざお呼びいただいた理由がよく分かるような状況です。

現実的かどうかは分かりませんでしたが、私が提案させていただいたのは2つの案。

一つは、設備室の壁を取り壊しての、ろ過設備の入れ替え

幸いにして道路側でしたので、壁の破壊は可能性としてはありますが、耐荷重が耐えられるものであるのかは要検討で、設備室が3階にあるため撤去と搬入にはクレーンが必要です。

既存の敷設配管の系統が把握しきれないので、基本的にはそのまま利用するしかありません。

小型のユニット化にしてでも自動運転や、次亜塩素による消毒、ろ過精度の向上を実現させるための計画です。

5台のろ過設備が設置してありましたので、壁を取り壊しての撤去と搬入となると、少なく見積もっても2,000万円(約150万元)~3,000万円(約200万元)ほどは必要ではないかと検討していました。

もう一つは、浴槽躯体の改造です。

大理石調の浴槽躯体ですが、壁際に掘り込んだ穴がいくつかあって、オーバーフロー水を回収するような方式になっていました。

ただ浴槽水位が制御できていない(手動補給)ため、掘り込みの部分と浴槽水面が15cmほど距離があり、機能していない状態でした。

先述のように配管は全て埋設されており、オーバーした浴槽水の行き先も分かりません。

現場の担当者にヒアリングをすると、浴槽換水の頻度も多くないため、浴槽水の汚れにクレームがあるそうで、それらを解決するために躯体に穴を掘り、手動で溢れさせて流れ込ませるようにしている、とのことでしたが、補給を入れすぎるとその回収槽から浴槽側へ逆オーバーフローするというのです。(考えただけでもおぞましいですが、中国ではよくあります)

実際の現場の画像。躯体に穴が掘り込んでありオーバーフローをさせることができるが、水位制御ができていない。
オーバーフロー水の行き先も分からず、逆流することもあるらしい。

まずは自動による水位制御を行って、オーバーフロー水は全て排水に変更するようなシステムに変更することを提案しました。

浴槽水の損失はありますが、槽内を清掃することも出きないので、排水させることしかありません。

躯体工事は防水工事に絡んでくるため、特に3階に浴場があることを考えると、大掛かりな工事は危険です。

費用は中国では躯体工事が日本と比べて安価に済むこともあるので、委託先によるものの、第一の方案よりは安く済み、それでも800万円から(50万元)~1,500万円(100万元)もあれば予算に収まるのではないかと検討しました。

最終的には予算の問題、そして安全性なども考慮され、方案2が採用されました。

ところが、打ち合わせの段階からオーナー側の担当者がしきりに言っていたのが、予算が高すぎる、もっと安くできる。ということでした。

私はオーナーから呼ばれた新参者ですので、実際の工事については直接関与せずに、必要があれば工事会社を紹介すること、提示した予算についてはあくまで概算なので私は保証しませんが、とお伝えしていました。

実際に自社で工事に取り掛かるのであれば、緻密な計画に基づいて実行するつもりですが、中国のローカル企業に比べれば予算は大幅に超過する可能性もあるリスクのあるものなので、方案の結果を保証するだけのオーナー側の設備アドバイザーという立場にとどまりました。

というのも、担当者が中国企業なら安く済むとしきりに言っていたこともあり、予算ありきではいい結果が得られる自信がなかったからでした。(こういうときの現場担当者はとにかく出張ってくるのです)

施工業者との事前打ち合わせは積極的にお手伝いはしたものの、最終的な施工結果は、制御線がむき出しだったり、水位計が丸見えであったり、とても想像していたものとは異なる状況ではありましたが、きちんと動作していさえすれば水質は改善されていました。

後々オーナー側に確認したところ、50万元程度の工事費で収まったとのことでした(日本では考えられない安さです)。

現地の担当者からは、「ほら、低予算でできただろう」と誇らしげに自慢をしていましたが、出来はともあれ結果は出たので、私の立場としてもホッとしていたところでした。

ところが、施工から2年ほどが経過した際に近くに立ち寄る機会があったので、再び現場に訪れたところ、以前のような水位制御はできておらず、元通りの状態に戻っていました

オーナーから直接話を聞くと、半年ほどで機械は故障が頻発し、排水口をいじったことで漏水まで起きてしまったとのことでした。

やっぱりあの時予算を超えてでも自分自身で責任を持って施工に関わっていればと、若干後悔したのを覚えています。

オーナーからは素晴らしい方案を提示してくれてありがとう、とお褒めの言葉をいただけたのがせめてもの救いではあるのですが。

中国で私がよく口にするのは、価格は嘘をつかない、ということです。

中国ローカル企業にはとんでもない低価格で施工を実施する企業があります。

しかし内容的には酷いもので、今回のように費用対効果がそのまま現れることがほとんどです。

勿論オーナー側としては、予算ありきの判断も理解はできるのですが、やはり適切な価格判断ができなければやり損になることも多いのです。

そうした状況判断をサポートできるように、弊社もサポートの質を高めなければいけないと感じた出来事でした。

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