小さい企業なので様々なことにチャレンジさせていただいていますが、弊社の主要事業は温浴施設のコンサルティングと設備販売です。
中国で温浴施設に関連する事業に携わってから、もう10年近くが経ちました。
極楽湯や大江戸温泉といった日系の大型温浴施設が上海を中心にや地方都市でも流行して、中国での温浴業界では、高単価長時間滞在のシステムが隆盛を極めています。
今回は、一方で、それとは違う視点で中国の温浴施設をフォーカスしてみます。
中国に視察に出掛けた、という温浴業界の関係者の方は多くいらっしゃいますが、中国ローカル(といっても日系の温浴施設でもオーナーは中国人がほとんどですが)の施設を体験した方はなかなかいらっしゃらないと思います。
とりあえず今回の定義として日系の温浴施設というのは男女が均等に楽しめる、清潔で大型の施設を指しておきます。
一方でローカルの温浴施設は1,000m2~3,000m2くらい、ほとんどが男性客、清潔を保つ運営の管理が成立していないような温浴施設としておきます。
今回例を挙げたいのは、蘇州市郊外の施設。
中国では、ありふれた銭湯です。
本当は館内の写真撮影を許可してもらおうとか思ったのですが、オーナーに聞かないと分からないと言われてしまいましたので、館外からの写真撮影のみ許可をいただきました。
入り口を入ると、もちろん挨拶もされず、初めてだと面食らって、どのように使用して良いのか分かりません。
フロントのカウンターテーブルにはこのように無造作にビニールスリッパが置かれています。
そのビニールスリッパに履き替え、外履きの靴はそのままカウンターに置き去りにします。
すると何も言わない従業員さんが外履きの靴にクリップ札を付け、その札と同じ番号のロッカーバンドを渡されます。
殆どの場合、フロントと更衣室は隣り合っていて、厚いビニールカーテンの間仕切りをくぐり抜けて更衣室に入り込み、当該のロッカーバンドの更衣ロッカーを使用します。
大変単純な仕組みで、愛想がないのはさて置き、何よりも感銘を受けるのがこのロッカーバンドです。
日本でも今でこそ運営の方式によってはロッカーバンドは自動精算式(ロッカーバンドで館内の精算を管理)する機能がありますが、このような小規模の所謂銭湯では鍵を挿入して使用するタイプで、館内精算は現金、といったケースが少なくありません。
中国でのこの運営システムのAI化は、やはりこのレベルの銭湯でも当たり前になっていて、アカスリやマッサージの売上も、このロッカーバンド一本で全てを管理します。
タオルや館内着は全て無料です。
アカスリは更衣室に待ち受けているオジサンがいて、彼に声をかければやってもらえます(さすがに衛生上私は受けたことありませんが)。
価格帯は30元(450円)程度~でアロエやハチミツといったオイル?のようなものを使用すると20元、30元と上乗せされる感じです。
これが意外と施術希望者が多く、夕方くらいには2つあるベットが満床になっていたりということもあります。
施術時間は数十分ですが、施設側としては貴重な客単価のポイントの一つでもあるかも知れません。
肝心の浴槽ですが、大きめのものが多く、20m3を平気で超えるような浴槽が一つ、というのが基本的なスペックです。
日本で一つの浴槽が20m3を超えるというのは、なかなか豪勢な作りです。
というのも中国ではそもそも浴槽の深さが深い作りになっていることが多く、800~1,000mm程度であることが一般的です(日本では500~600mm程度)。
中国人が大きめの浴槽を好む人が多いのかも知れませんし、日本のような炭酸風呂や日替わり風呂といったラインナップもありませんので、白湯が一つドドーンと置かれているケースが多いです。
だいたい中央にその大きなお風呂があり、その隅にシャワーが並べられている感じが多く、また浴槽横に大型のテレビが置かれていることもあります。
サウナはほとんどありません。
ありません、サウナ室自体はあっても、機能していないケースが多いです。
今回の体験施設でもサウナ室自体は10m2弱のものが浴場の奥にあるのですが、機能していない状態でした。
体験者数と費用対効果が合わないのでしょう。
作ってはみたけどコストもかかるし止めました、という形に落ち着くのでしょうが、まさに計画性の乏しい中国といった感じです。
2階にはリクライナーがたくさん置いてある休憩ルームと、マッサージルームがあり、これがほとんどの中国のローカル温浴施設の概要です。
と、まあここまで書き連ねてみましたが、浴室内は湿気が多く、全体的にどんよりとした雰囲気で照明が暗かったりと、何か悪い病気にでもなりそうなくらいです。
客層は9割以上が男性で、女性浴場はシャワーカランが無機質に並べられているだけ、という形式も多いようです。
なぜこういう男女比になるか、という点ですが、核心的な話をするとこうした中国のローカル銭湯の多くが、いわゆる性的サービスが行われる場所である、という認識があるからです。
もちろん中国でのそれは非合法で、黙認されている状態が続いています。
温浴業界の関係者としてはあまり受け入れがたい現象なのですが、多くの中国人がお風呂屋さん=男性の遊ぶお店というイメージがあまりにも強烈に存在しています。
そうでなくとも、衛生面でこれだけ清潔感がない施設では女性が好んで行くはずがありません。
これが中国のローカル温浴施設の悪循環の現状です。
経営側としては、性的サービスが非合法であることは認識としてはあっても、それを中心に売上を構築することが最も簡単で手間がない、と考えられています。
ある意味それらを打破して、純粋なお風呂を楽しむ施設として冒頭の日本式温浴施設が人気を集めることになりましたが、根底にあるこの負のイメージはまだまだ一部の中国人のイメージとしては、存在している部分です。
そういう中国の温浴施設の歴史的変遷を追っていくと、それはまた興味深いものでもあります。
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