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2021-10-12
中国での独立志向の高さとその結果。

私自身も脱サラ独立をしている身なので、他人のことをどうこういう立場にはありませんが、中国では脱サラ独立が日本に比べてあまりにも多くいます。

特に中国における中小企業経営者としては、優秀な従業員が翻ってライバルとなるリスクもあり、それに伴って大事な決裁などは、全て老板(社長)自身が取り仕切るトップダウン方式がかなり多いと言えます。

そのため肝心な経営のポイントは従業員、その幹部とて知ることがないままであるケースも多く、組織として成長しづらいというのがあります。

では、なぜ中国で脱サラ独立の傾向が強いかと言えば、いくつか理由があります。

まずは相対的に見て、従業員給与が低いことが挙げられます。

大企業ならいざしらず、ピンからキリまでの労働意欲の中国人従業員をコントロールするのは、中国人経営者であっても簡単なことではありません。

離職率も日本と比べ物にならないほど高く、先述のようにノウハウを取得したらサッサと独立されてしまうリスクがあれば、中小企業で高待遇を支給できることは難しいでしょう。

それから、経済発展の後押しです。

私の父親のような団塊世代でもあったように、経済バブルで押せ押せムードの景気になると甘い話が出てきやすくなりますし、俺でもできるんじゃないか!という市場の雰囲気もあります。

景気低迷の国に投資をするか、高度成長期の国に投資をするか、と考えれば当然後者に投資をするので、その国の経済状況は、独立脱サラと大きな関係性があるでしょう。

さて、今回はとある大手の日系企業から独立をしたLさん、私の行きつけの料理店(烧烤)のS老板と、それぞれ久しぶりに話す機会があったので、それに絡めて話をしたいと思います。

大手日系企業のトップ幹部生だったLさんは地方都市の工場に10数年も勤めていましたが、今から3年ほど前に独立。

中国人の中では圧倒的に日本人総経理から強い信頼を得ていて、仕事もできる優秀な人材だったので、退職を聞いたときには驚かされました。

彼は製造メーカーから独立して、店舗型の飲料販売店を出店しています。

当初は優秀な彼とは思えないような、収益見込みとしては「これから絶対に流行りますよ!」などと、かなり打算的な感じではあったのですが、現在はそれなりに収益を得ていて、何とか生活できているということでした。

実際に待遇的な面はどうなのか、と言うと、そこまで大きな変化はないそうで、ボーナスがなくなったことと、あとは自分自身のプレッシャーが大きいと言っていました。

この辺の心境は日本で独立するのと変わりありませんが、独立志向があれば別としても、思い切った転身だなと感じさせられました。

今になって、なぜ元の日系企業を退職したのか理由を尋ねましたが、やはり経営陣が全て日本人なので自分自身のやりがいや、成長の伸び代を感じられなくなったと言っていました。

総経理らが認める人材だっただけに、これが退職理由だとすると何とも無念な思いがあります。

中国に進出する日系企業なら必ず気を付けなければいけない部分ではないでしょうか。

続いて私の行きつけの料理店老板Sさん。

彼は湖南省の田舎町から上海の料理店へ出稼ぎに来ていました。

奥さんと子供を実家に置いて、上海で一人で生活をしていたのですが、一念発起して10年前に独立。

お子さんも義務教育を終えたタイミングで、家族を連れて自身の料理店を開業。

料理店と言っても烧烤(日本の焼き鳥屋さん?のようなもの)で、食材はほとんど卸された物を、ただ焼くだけという感じなので、実際のところ何か大事なノウハウがあるような事業ではありません。

家賃を払って、内装を行い、その2階で一家住んでいるという、まあ中国ではよくある独立の仕方かも知れません。

それでも私が疑問に思うのは、なぜ上海なのか、そして決して劇的に裕福な生活が送れる訳ではない環境で、なぜ独立をしなければならないのか、という点。

その点についても聞いてみると、彼が答えたのはまず何よりも、家族がいるのに離れ離れで生活をしていくというのが嫌だったということ。

収入面で言えば彼のような学歴のない地方出身が上海でサラリーマンをやったとしても、給与は手取りで4,000元~6,000元(60,000~90,000円)なので、家族と一緒に暮らすには大変だということ。

まして故郷では2,000元(30,000円)程度の月収の仕事しかないので、あまりに苦しい。

自分には学歴がなく、商売の才能もないから、苦労してでも独立して決していい生活ではなくとも自由があって、家族と過ごせるならそれが一番いいじゃないか、と言っていました。

彼が言うのは中国人としては至極まっとうな発想かもしれません。

それに私自身もこうした中国人の発想に、どちらかと言うと感化された側面があるかも知れません。

日本のイメージでは独立、と聞けば、よりよい生活を送るために才能のある人材が独立して社長になる、というのが一つの大きな野望のように聞こえます。

これはこれで中国で独立をされた多くの経営者も同じです。

その一方で、こうして自分の脳力のなさを認めつつ(彼の場合独立して10年で悟ったということもあるかもしれませんが)、何とか自分の努力で人並みの生活を送れるだけの収入を得るというのは、脱サラ独立における経済格差の大きな中国ならではの発想かもしれません。

実際に私も彼のお店の経営状況が理解しにくかった(どうやって儲けるのか)ので、少し真面目にヒアリングをさせてもらいました。

ざっくり勘定するとこんな感じでした。

家賃と住居が3.5万元(52.5万円)の路面店で、売上が月7万元(10.5万円)前後、うち食材費が2割弱(これがすごい)で1.4万元(21万円)程度。

その他電気代やガス代など諸々はありますが、個人事業で個人の所有物と店舗の所有物が曖昧で、税理士なども存在しないような業態なので何とも言えませんが、手元におおよそ1万元強(15万円)は残る計算になるそうです。

従業員は奥さんとご自身、それから2人のお子さんなので、その残った金額がそれぞれの給与に割り当てられることになります。

ちなみに年中無休です。

月の手取りで言えば確かにサラリーマンと遜色なさそうですが、時給換算したら、やっぱりサラリーマンをやったほうが良さそうです。

家族旅行もできないし、実家も一人ずつ帰ったりするそうですが、それでも彼は今の生活が幸せだと力強く言い切っていました。

何だか納得できるような納得できないような。

それでも、これがある意味この業界で独立脱サラする、中国地方都市出身者のスタンダードかも知れません。

包み隠さず色々話してくれたS老板にも感謝ですし、こういう考え方は人生の先輩として聞かせてもらえると、小さな世界かもしれませんがとても面白いなあと感じられるものです。

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