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2021-11-01
上海浦東新区にある温浴施設、湯里来。

□模倣品、模倣施設の実態

倫理的判断が難しいところですが、2010年代から日本式の温浴施設がいくつか誕生し、誰が誰を模倣したかは分かりませんが、中国では儲かる商売に乗っかって同じような施設や商品を作り上げてしまうことはある意味仕方がないことです。

もちろん商標権の侵害等の明らかな違法行為があれば別ですが、中国では儲かる商売を模倣することも一つの商売上手の常套手段でさえあり、まさに弱肉強食の世界です。

少し話が逸れてしまいますが、先日の龍角散のニュースのように中国への進出に模倣製品への懸念はどうしても心配になりますし、中国だけではなく海外へ進出するには、日本では考えられないようなトラブルも避けては通れない道です。

とはいえ泣き寝入りをしたところでシェアを奪い取られるだけなので、模倣ができないよう絶えず変化や工夫を加えていく必要があり、それらはある意味日本企業が得意としない部分かもしれません。

ただもちろん、中国でも明らかな模倣品、模倣した施設がその元々のモデルとなる対抗相手と同じような成功を収められるかと言えば当然そうともいい切れません。

真似する方も真似する方で、本家本元には勝てないと頭では分かっていたりもします。

真似された方は商売敵となれば面倒な存在ともなりますが、簡単に一人勝ちもできないのが中国の市場でもあり、一方で真似されるだけの魅力があることの証左であるのも、また事実です。

■上海極楽湯の模倣店

さて、上海浦東新区には我々日本の温浴施設を代表する本家本物の「極楽湯」があります。

今更語るまでもありませんが、今も根強い人気を誇っています。

その極楽湯の1号店の開店からおよそ3年後、車で15分、およそ5km先に、とある温浴施設が出来上がります。

その名を「湯里来」という、日本っぽい名前の温浴施設です。

なぜ日本っぽいのかというと、中国語の「湯」は「酸辣湯」とか火鍋の「菌湯」など、飲食物のスープを示す漢字であり、日本語の「お湯」にあたるものは「热水」ですし、お風呂は「泡池」とか「浴池」となるため、「湯」が表す意味がそもそも日中言語で全く異なります。

「極楽湯」はそのまま翻訳してしまえば「極上のスープ」とかになってしまいますが、この「湯里来」も「スープの中に入る」というような意味になってしまいます。

お風呂=「湯」という発想は明らかに日本語から由来しているものの、それこそ「極楽湯」が誕生してからよってこぞって中国に誕生する日本式の温浴施設に、この「湯」という言葉が施設名として用いられるようになりました。

当の極楽湯からすれば模倣したと文句の一つも言いたくなるところですが、残念ながらこれだけでは商標侵害には当たりませんし、あっという間に中国全土に広がってしまったので訴える暇もないかもしれません。

□極楽湯が中国の温浴業界に与えた衝撃

冒頭のように言い換えれば、それだけ日本最大のスーパー銭湯チェーンである「極楽湯」の出店が、その業界だけではなく、一般的に利用するユーザーにも大きすぎるインパクトを与えたのは紛れもない事実です。

最近では中国独自の「湯泉」などという造語も多く用いられるようになりました。

天然温泉を使用していないため多くの施設では「温泉」とは直接的に言えないので、中国語の語感も良く、どこから誕生したかは分かりませんが、この造語も一気に中国全土で広がりをみせました。

■模倣店?湯里来のオープンまでの驚愕の素早さ

さて、話を戻しますが、この「湯里来」の開業において驚くべきはいくつかあります。

まず前提として5km先の極楽湯を模倣したかどうかは定かではありませんが、極楽湯誕生のわずか3年後にはこの湯里来はオープンしています。

湯里来は極楽湯ほどの敷地面積はありませんが、5,000m2弱の建築面積がありちょっとした日本のスーパー銭湯よりも大きなサイズとなります。

本家開業から3年後にそれを作り出してしまうのですから、(模倣したと仮定すれば)恐ろしい計画速度と施工速度です。

実は以前よりこの湯里来のオーナーのW社長とは親しくしているのですが、彼らは数人の個人オーナーでみな浙江省出身です。

浙江省は中国においての特徴としてよく言われるのが商売上手。

模倣を商売上手とするのは日本人としては気が引けますが、その温浴施設というビジネスチャンスを捉える視点というのは誰よりも早かったのもまた事実ではあります。

数多のローカル温浴施設を体験してきましたが、写真はオープン直後の状態とは言え、それなりに清潔感には気を配っている印象もありました。

また実はこのオーナー、2000年代初頭には今の極楽湯から更に近い距離(約2km)にある場所で2,000m2ほどの小さな温浴施設を経営していました。

そのため中国での温浴施設の経営知識はかなりのもの。

まして20年近くに渡ってそのローカル施設を経営し続けているというのも中国では相当凄いことです(だいたい5年や10年で店じまいが普通)。

虎視眈々と次のビジネスチャンスを狙っていたところに、手頃な物件とモデルとなる日本式の店舗ができたことがこの「湯里来」の誕生に結びついたようです。

□模倣はあくまで模倣 ~建築費の差異~

この湯里来、もう一つの凄さは極楽湯との施設の類似性と建築費の安さ。

双方のおおよその情報を整理してみると、湯里来の建築費用は一方の1/3程度のようです。

それもそのはず湯里来の施工はゼネコンなどは使わずに、オーナーの身内らが現場を取り仕切って材料を買い付けたり、雇い入れた職人さんに指示をしているような施工体制。

まさに昭和の日本(どころか大正時代)のようです。

従って両者の建築物の精度は明らかです。

遠目から見れば似たような施設にも見えなくもないですが、我々のような専門家がその完成物を見れば明らかな違いだらけですし、恐らく銭湯慣れした日本人であれば違和感や清潔感の不足を感じるはずで、あらゆる面で施設としての完成度に極楽湯の優位性は疑いようがありません。

しかし、中国の一部の消費者からはそれらが決して最も重視される訳ではありません

■中国人消費者のリアルな声

温浴施設の衛生面の清潔感は我々からすれば必然であり最優先ですが、そもそも経験がなく、それが普通だと思っていれば、お風呂に慣れた我々のように嫌悪感を感じたり、そもそも意識をすることがないかもしれません。

一度、湯里来を体験中に隣に居合わせたお客さんと会話をしたことがあります。

「極楽湯には行ったことがあるけど、内容はそんなに変わらないし、何よりも湯里来のほうがずいぶん安いからね。」

私もビックリしましたが、これが中国の消費者の声です。

温浴施設に対する法的規制が少ない中国において、私もこの湯里来を批判することはできませんし、その他多くのローカル温浴施設に比べればかなりマシな方でもあります。

実際に施設維持のために運営やメンテナンス等も丁寧にやられている印象もあります。

私もこの湯里来のW社長とは気心がしれた仲ではありますが、この手法が正しいとは決して思えません。

それでもある意味中国における彼の商売の手法に学ぶべき点も少なくないと感じてしまうのもまた事実なのです。

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